「食品機械装置」2020年3月号の特集にて、当社代表取締役の熊野執筆による記事『給水管内の赤錆を防止して食品衛生管理に役立てる技術』が掲載されました。以下、本紙掲載内容一部抜粋です。
給水管、空調管、水道管といった配管は人間の体でいえば血管に例えられるように、建物の中でも大変重要な役割を担っているが、外壁の塗装等と比べて意識が低く、対応が遅れることが多い。
現在、主に空調設備に使用されている配管には亜鉛メッキが施されており、給水管に使用されている配管には内面に塩化ビニル樹脂層がある。これらは、10年を過ぎるとメッキが剥げて徐々に赤錆を生じたり、樹脂層があっても継手(ネジ山)部分は腐食し、水漏れが起きたりする。赤錆が発生すると、給水管には雑菌が繁殖し、不衛生になり、水の味も悪くなる。そして、最終的には配管を全面交換せざるを得なくなる。
赤錆腐食が進行すると、もろくなった赤錆部分は流出し、ネジ山が欠けてしまうことで配管の耐震強度の低下につながる。一度欠けてしまったネジ山は復元できないため漏水事故を防止するには早期の対策が必要となる。
経年劣化した配管の赤錆問題は配管更新によって解決するが、配管の更新には多額の費用を要するだけでなく断水を伴い施設の使用を制限して工事を行う必要があり、業務にも大きな支障が出る。
こうした中、弊社は老朽化した配管でも交換せずに赤錆劣化を止め、配管寿命を延ばす画期的な工法を 1996 年に開発した。設置に際して施設の運営に支障を起こさず、配管更新費用の1/5~1/10(空調管では 1/20以下)で対策が可能な配管内防錆装置『NMRパイプテクター® 』である。
・NMR 工法とは
水の凝集を小さくした状態を持続させ、その水を絶え間なく運動させて配管内で弱い雷放電のような状態を起こす。それにより、配管内に新しくできる赤錆発生を防止すると同時に、既存の赤錆を水に不溶性で体積1/10の黒錆へと還元する。この「共鳴」を利用した配管防錆技術が、弊社が世界で唯一確立しているNMR工法である。
NMR工法は、磁界の下で水素核に共鳴振動を起こす特定の波長の電磁波を、装置から発生させることで、装置部を通過した水は6時間以上共鳴状態を維持する。その間、水分子は小さな凝集が保たれ、水の自由電子(水和電子)は凝集の外側に位置し続ける。圧送ポンプなどによって、この状態のまま配管内で水を運動させると、水が通過した箇所で水和電子が剥離(はくり)放電され、赤錆が黒錆に還元され、配管の末端まで防錆効果を発揮することができる
奇数の原子番号の物質、例えば水素(原子番号1)の原子核はN極とS極に分極(磁極化)しており、この原子核に特定の電磁波を与えると原子核が共鳴を起こす。この現象をNMR(Nuclear Magnetic Resonance)という)。
一般的に NMR(核磁気共鳴)を起こすためには強い磁場(2~3万ガウス)が必要とされているが、2009年に九州大学で行われた日本核磁気共鳴学会の年次大会で、「地球磁場でNMR現象が発生することが実証された」との論文が発表されている。 これは弱い磁場であっても核磁気共鳴現象を起こしているNMR工法の技術を裏付けるものである。
配管内の防錆技術として『パイプテクター®』の特徴や優位性を改めて以下に挙げる。
『パイプテクター®』設置後、建物寿命まで給水管、空調管を延命させることが可能になり、一時的な出費が抑えられ、施設の外装などにも費用を掛けられる。ほかにも、ランニングコストなどの出費がなくなる上に、新築の建物にも装置の移設が可能となる。つまり、建物管理での経費削減の最良の方法といえる。
『パイプテクター ®』の初期の効果検証事例の1 つを紹介する。2001 年、当時、築25年の北海道立工業試験場※1の給水管での試験例である。この施設で『パイプテクター®』の防錆効果を公的に確認するための効果検証を実施した。 試験では、表面工学の研究者で生体工学の権威である北海道大学の勇田敏夫名誉教授の監修の下、『パイプテクター®』の還元作用について検証を行い、『パイプテクター®』によって水中に溶出する鉄分値が減少することを確認した。また、新規の赤錆発生が完全に防止され、同時に、既存の赤錆の表面が水に不溶性の黒錆 に還元されたことが実証された。このことはマンション管理の専門紙である「マンション管理新聞」にも取り上げられた。
ヨーロッパではCO2削減への取り組みが進んでおり、建物の改修の際も給水管の全面取り替えを行わず、既存の配管を使用する動きが活発になっている。給水管や空調管の取り替えは大量の CO2発 生要因となる。英国では、配管の外部設置で唯一の配管内防錆装置であり、優れた防錆効果がある方法として,すでに多くの建物で『パイプテクター®』が採用されている。聖トーマス病院、英国放送協会(BBC)、バッキンガム宮殿、英国国会議事堂、大英博物館、英国高級ホテルのロイヤルガーデンホテル、五つ星の世界最大級のホテルチェーン、マリオットホテル、ヒルトンホテル、インターコンチネンタルホテルグループのホリデーインなど、著名な建物がその例である。
『パイプテクター®』は建物の配管のみならず、埋設水道管の防錆にも大いに効果が期待できる技術である。2013年には日本水道協会で、横浜水道局が『パイプテクター®』により配管内の赤錆を防止することで殺菌用残留塩素の減少防止にも効果があるという論文を発表した。さらに、2016 年にはベトナム国ビンフック 省の水道管にて『パイプテクター®』の実証試験を行い、短期間での防錆効果を確認した。東南アジアをはじめとした途上国での老朽化した水道管の赤錆劣化対策としても、今後、普及することが期待されている。配管設備は目に見えにくい設備だけに気づかぬうちに赤錆劣化が進行する。漏水などが起きる前に、まずは「配管の赤錆劣化状態を知り、早めの予防対策をする」ことこそが配管の長期延命のカギといえる。
■脚注
※1)北海道立工業試験場......平成22年4月に地方独立行政法人北海道立総合研究機構に名称が変更された。
■参考文献
1)「地磁気NMRにおける偏極法による高感度化」(2009)、赤羽英雄、渡邊翔太、糸﨑秀夫、大阪大学大学院基礎工学研究所