配管内赤錆劣化対策の新技術として「NMR工法」が紹介され、NMRパイプテクター®についても掲載されました。以下、本紙掲載内容一部抜粋です。
本稿の目的は、建物の給水、空調冷温水管内の新規赤錆発生を防止して配管を延命する技術として、弊社の開発したNMR工法の原理およびその施工事例を紹介する事である。 従来の配管内赤錆劣化対策で、効果の一番わかりやすい方法は配管更新工事であった。配管更新工事を行えば現状の赤錆問題は100%解決し、かつその後20年から25年は配管の寿命が延命されることになる。しかしながら、配管更新工事は、
NMR工法の防錆技術は、配管を切断することなく 配管外部から赤錆防止・配管更生装置NMRパイプテ クターを設置することで「配管内の赤錆を、錆を防ぐ 防錆皮膜の黒錆に還元して配管内面を黒錆で被覆する」 というものである。防錆皮膜の黒錆により配管内面を被覆すれば新規の赤錆発生を防止することができる。 よって、配管の肉厚を現状のまま保持できるので新規赤錆腐食による漏水を防ぎ、配管を40年以上延命することができる。NMR工法の配管延命事例を示す前に、まずNMRパイプテクターによりどのように赤錆を黒錆化するのかを説明する。
配管内の赤錆(=オキシ水酸化鉄(FeO(OH)))は、鉄(Fe)と水(H2O)、そして水中の溶存酸素(O2)が 反応することにより発生する。化学反応式で表すと式(1)となる。 4Fe+3O2+2H2O⇒4FeO(OH)…(1) 右辺にある赤錆すなわちオキシ水酸化鉄FeO(OH)には水酸基OHがついているので水溶性があり、亜鉛めっき鋼管では経年により配管内面全体に発生した赤錆が水に溶け赤水が発生する。また、赤錆は水と反応して生成されるため比較的体積が大きく、塩化ビニルライニング鋼管の継手部では赤錆閉塞が起こる。 NMR工法は、配管内の赤錆に電子を供給して赤錆から水和している水分子と酸素分子をOH-という形で切り離し、体積が10分の1以下の不動態である黒錆(Fe3O4)に還元する。これにより赤錆閉塞も徐々に縮小させる。電子をe-として化学反応式で示すと式(2)となる。6FeO(OH)+2e-⇒2Fe3O4+2H2O+2OH-…(2) したがって、実際の建物の配管内赤錆を黒錆化するNMR工法は、 (a)水で満たされた配管内に水の運動により連続的に電子を発生させる。 (b)配管内に連続的に発生した電子を、配管内の全ての赤錆へ効率的に供給する。 という2点を実現する還元反応は、式(1)のFeに対する酸化反応を止めてからでなければ起きない。 したがって、黒錆化が起きているということは、新規の赤錆劣化が完全に止まっていることを意味する。
NMR工法は、水で満たされた配管内に電子を発生させ、かつ効率的に配管内全体に電子を供給する仕組みを実現するため、 水素原子の原子核の共鳴現象を利用している。 給水管の中の水は、一般に水分子(H2O))同士が水素結合により大きな凝集体を形成して流れている(第1図)。 これはH-O-Hの結合角度が104.5度と偏っており酸素の電気陰性度が比較的大きいため、水素がプラス、酸素がマイナスに帯電し(第2図)、 水分子同士の水素のプラスと酸素のマイナスが引き合うためである。 一方、原子番号が奇数原子、例えば水素原子(原子番号1)の原子核は磁極を持ちN極とS極に分極している。 この水分子の水素の原子核に、配管外部に設置したNMRパイプテクターよりある特定波長の電磁波をあてると(第3図)、 水素の原子核に共鳴現象を起こすことができる。これを、原子核の磁極共鳴現象を起こす、という意味で「核磁気共鳴現象(Nuclear Magnetic Resonance)」と呼ぶ。水素の原子核に共鳴現象を起こすと、水分子同士をつなげていた水素結合が切れて水分子の大きな凝集体が小さな凝集体へと変化する(第4図)。水分子の凝集体が細分化したこの状態で配管内に流すことにより、雷雲同様、微弱な放電現象が連続的に起き、この放電の電子により赤錆を黒錆に還元する。ここで発生する電子は学術的には水和電子(hydrated electron)と呼ばれている。
NMR工法は水素の原子核に共鳴現象を起こすことで、水分子の凝集体を細分化させ、細分化した水分子の凝集体
を配管内に流すことにより電子を発生させる。
ところで、水中に電子を発生させる方法として、水素の原子核の共鳴現象を利用するのは次の理由による。
・水素の原子核の共鳴現象は6時間持続する水分子の凝集体を何らかの別の方法で細分化しても、水素のプラスと酸素のマイナスが引き合い短時間で再凝集してしまう。しかし、水素の原子核に共鳴現象を起こせばこの共鳴現象は約6時間持続するため再凝集を6時間防ぐことができる。したがって、高架水槽2次側や圧送ポンプ2次側の配管などにNMRパイプテクターを設置すれば、そこから末端の配管まで放電性のある水が流れて電子が発生し、配管内全体の赤錆を黒錆に還元することができるのである。すなわち、NMR工法は上記の、
(a)水で満たされた配管内に水の運動により連続的に電子を発生させる。
(b)配管内に連続的に発生した電子を、配管内の全ての赤錆へ効率的に供給する。
を両方実現できる画期的な技術である。
今までの技術では、実際の建物に施工されている配管内に対して、この(a)(b)を両方実現することができなかった。例えば、配管内に電子を供給する方法としては、電気防食がある。しかしながら、配管内赤錆劣化対策としての電気防食は電子を供給する(a)は達成できても、配管内の全ての赤錆へ電子を供給する(b)を達成することは非常に困難である。配管内に電気を流す方法は、配管に独立した単電極を挿入する方法と、連続的に電気防食を行う1本の電極線を通す方法がある。単電極方式の場合、電気は最も抵抗の少ない最も近いところに流れるため、現実の建物の配管全てに電子
を供給するには何百という電極を配管内に挿入する必要があり、これでは配管更新の方が経済的になってしまう。また、線電極を配管内に通す方法も、配管内に均一に電子を供給するためには、管壁に接触することなく配管の円の中心に線電極を維持する必要がある。しかし、実際の建物の配管は途中に多数のエルボ等の継手部があり曲がっているため、線電極は管壁に接してしまい効果を出すことは困難であった。
NMRパイプテクターの一般的な設置箇所は次のようになる。
・給水系統:受水槽、高架水槽、またはポンプの2次側の配管
・空調系統:冷却塔、冷凍機、ボイラー、冷温水発生機などの2次側の配管
一般的な建物であれば、NMRパイプテクターを1系統につき1基設置すれば、NMRパイプテクター設置箇所から端末まで配管内の赤錆を黒錆化することができる。
NMR工法は水素の原子核に共鳴現象を起こすことで、水分子の凝集体を細分化して放電性の高い水をつくり、それを配管内で流すことにより配管内に電子を発生させ赤錆を黒錆に還元する。
したがって、水の使用量の多い系統では早く赤錆の黒錆化が起こり、水の使用量の少ない系統では赤錆の黒錆化がゆっくり起こる。
非常に極端な場合として、全く水を使用しない系統の配管では、配管内に水が流れないため赤錆の黒錆化を起こすことができない。また、当然ながら配管の外部腐食に対しては全く効果がない。
これより、NMRパイプテクターを実際に設置した建物の事例を紹介する。
(1)給水管の事例1:東京都 日本赤十字社広尾医療センター
①建物概要:築24年、7階建、病院施設
②給水方式:高架水槽方式
③配管材料:亜鉛めっき鋼管
④設置目的:赤水解消、配管延命
⑤NMRパイプテクター設置箇所
(2)給水管の事例2:東京都 車返西住宅3街区
①建物概要:築25年、5階建て、全17棟560戸の団地
②給水方式:給水ポンプ給水方式
③配管材料:塩化ビニルライ二ング鋼管
④設置目的:赤錆閉塞改善、配管延命
⑤NMRパイプテクター設置箇所:
●圧送ポンプ2次側配管(150㎜)に2基設置
●3-6号棟前分岐後送水本管(100㎜)に1基設置
●3-15号棟前分岐後送水本管(75㎜)に1基設置
以上、NMRパイプテクター合計4基設置(築年数はNMRパイプテクター設置時の数字)
本物件は全17棟560戸の大規模な団地で、給水管に塩化ビニルライニング鋼管が使用されている。塩化ビニルライニング鋼管は直管部が亜鉛めっき鋼管のように腐食することはないので赤水は発生しない。 しかしながら、塩化ビニルライニング鋼管の場合、配管と配管を繋いでいる継手部に赤錆腐食が進行し赤錆による閉塞が起こる。放置しておけば赤錆閉塞により水の流れが悪くなるだけでなく、継ぎ手部のねじ山が脱落し配管の結合強度が著しく低下して中程度の地震でも配管がはずれ漏水が起きてしまう。NMR工法は配管内の赤錆を黒錆に還元することで新規の赤錆発生を完全に防止するので、配管の結合強度を現状のまま維持できる。また、黒錆は赤錆と比較して体積が10分の1以下なので、赤錆を黒錆に還元することにより赤錆閉塞を縮小改善することができる。 NMRパイプテクター設置前と設置後で、給水管末端部の継手部における内視鏡調査により赤錆閉塞縮小改善効果の確認を行った。 第5図はある部屋のトイレ給水管末端部の継手部における赤錆閉塞の写真である。 NMRパイプテクター設置前の赤錆閉塞率は23.7%であった。同一箇所の設置12ヶ月後の赤錆閉塞率は13.6%、31ヶ月後で13.2%、43ヶ月後では9.2%とNMRパイプテクター設置前より赤錆閉塞は大幅に縮小改善している。また、設置前と設置後の写真を比較すればわかる通り、設置前で赤錆閉塞の発生していない箇所は設置43ヶ月後でも赤錆閉塞の発生が全く見られない。すなわち、新規赤錆の発生を完全に防止していることもわかる。 車返西住宅の管理組合の方から、マンション管理新聞2005年3月25日号に掲載された取材記事の中で「現在のところ住民から水に関する苦情はない」とのお言葉を頂いている。車返西住宅は全17棟560戸の大規模な団地であるが、NMRパイプテクターを4基設置するだけで配管の延命が実現されており、本物件も大規模修繕費用の大幅削減に貢献している。
次に空調冷温水管にNMRパイプテクターを設置した事例をご覧頂く。
(1)空調冷温水管の事例1:神奈川県 某管理センター
①建物概要:築22年
②配管材料:亜鉛めっき鋼管
③設置目的:赤錆腐食による新規漏水防止、配管延命
④NMRパイプテクター設置箇所:
●3系統の冷温水発生機2次側冷温水配管(200㎜)それぞれに各1基ずつ、合計3基設置
●膨張水槽2次側補給水配管(65㎜)に1基設置
以上、NMRパイプテクター合計4基設置(築年数はNMNRパイプテクター設置時の数字)
本物件は、大規模団地内の商業施設を含む4棟に冷温水を供給している施設である。
商業施設の営業を停止できないため断水工事を行うことが不可能なこともあり、
断水工事不要のNMRパイプテクターが選択された。
効果確認の方法は、枝管の配管を抜管して配管内面の錆を採取し、全錆中に含まれる黒錆量
の割合を測定する黒錆質量分析である。給水管の事例1では亜鉛めっき鋼管使用の物件に対して鉄イオン値測定による効果確認方法を採用している。
しかし、同じ亜鉛めっき鋼管が使用されている本物件では鉄イオン値の測定による効果確認方法は採用しない。
理由は、空調冷温水管は同じ水が配管内を何度も循環しているため、NMRパイプテクター設置前と設置後で、一過性の給水のように朝一番の夜間滞留水という同一条件の水を採水できないためである。
NMRパイプテクター設置前において、抜管して採取した全錆中の黒錆量の割合は2.2%であった。
この黒錆の割合がNNRパイプテクター設置3ヶ月後では14.4%、6か月後では53.4%、12ヶ月後では72.9%、そして45ヶ月後では91.7%にまで達し配管内の赤錆の黒錆化が達成されている。
45ヶ月後の調査においては、残りの8.3%はスケール成分であり、赤錆はすべて黒錆化されている状態であった。
また、この施設の設備担当者から「NMRパイプテクター設置前にはピンホールによる漏水が多発していたが、NMRパイプテクター設置後は一切なくなった」というコメントを多数頂いており、設備担当の方には非常に効果がわかりやすく実感できる。
(2)空調冷温水管の事例2:埼玉県 某食品工場
①建物概要:築15年
②配管材料:亜鉛めっき鋼管
③設置目的:赤錆腐食による新規漏水防止、配管延命
④NMRパイプテクター設置箇所:
●冷凍機2次側合流部冷水配管(125㎜)に1基設置
以上、NMRパイプテクター合計1基設置
(築年数はNMRパイプテクター設置時の数字)
本例は工場である。上記の事例1と同様、枝管を抜管し黒錆の質量分析により効果確認を行った。
NMRパイプテクター設置前において、黒錆量の割合は1.2%だったのに対して、NMRパイプテクター設置12ヶ月後では76.8%、設置23ヶ月後では90.2%と大幅に黒錆量が増加した。
残り9.8%はやはりスケール成分である。
次に4日間という非常に短い期間で配管内赤錆を黒錆化した事例をご覧いただく。
①建物概要:築35年
②給水方式:高架水槽給水方式
③配管材料:亜鉛めっき鋼管
④設置目的:赤水解消、配管延命
⑤NMRパイプテクター設置箇所:高架水槽2次側配管(200㎜)に1基設置
以上、NMRパイプテクター合計1基設置(築年数はNMRパイプテクター設置時の数字)
本例はDPE工場で、給水管に亜鉛めっき鋼管を使用しているため赤水が発生していた。
DPE工場は水質が命であり、赤錆を流出させてしまう磁気式やセラミック装置では水質悪化により品質に悪影響がでること、
また赤錆を流出させることにより配管内強度が低下することが懸念されるため、断水不要で赤錆を流出させず黒錆に還元するNMR工法が採用された。
NMRパイプテクター設置前に配管内に一定時間滞留した水を採取し鉄イオン値を測定したところ、水質基準値0.3㎎/Lを越える0.5㎎/Lであった。NMRパイプテクター設置後、同一条件で採水し鉄イオン値を測定したところ、設置4日後で鉄イオン値が水質基準値以下0.2㎎/Lを示し、設置6日後には0.05㎎/L未満にまで減少した。これは、DPE工場は毎日800t以上の水を大量に使用するため、配管内赤錆の黒錆化が急速に起こった結果である。この事例でわかるように、水の使用量が多ければ非常に早く配管内赤錆の黒錆化を達成することができる。
NMRパイプテクター設置の物件は日本のみならず海外にもある。ここでは英国の設置事例を2つ紹介する。
(1)英国での事例1:英国ケンブリッジ市アッデンブルックス病院
①建物概要:築34年、5階建(1,300床)
②建物方式:循環給湯方式
③配管材料:亜鉛めっき鋼管
④設置目的:赤水解消、配管延命
⑤NMRパイプテクター配管箇所:
●貯湯槽2次側給湯配管(65㎜)に2基設置
●3階系統給水配管(32㎜)に1基設置
以上、NMRパイプテクター合計3基設置
(築年数はNMRパイプテクター設置時の数字)
本物件はイギリス最大の病院であるアッデンブルックス病院(1,300床)の給湯系統にNMRパイプテクターを設置した例である。アッデンブルックス病院は3年前に給湯管の更新を行ったにもかかわらず再度赤錆劣化が深刻化し、赤水や漏水が発生していた。 その対策として貯湯槽2次側の給湯管および温度調節用の3階の給水配管にNMRにパイプテクターが設置された。 NMRパイプテクター設置前の水質検査では、鉄イオン値が英国の水質基準値0.2㎎/Lを越える1.07mg/Lと非常に高い値を示したが、NMRパイプテクター設置11日後では0.188mg/L、設置66日後では0.11㎎/Lと英国の水質基準値0.2㎎/Lを大幅に下回る結果となった。 英国では歴史ある建物が多く改築や取り壊しが容易にできないため、古くなった建物の配管の赤錆劣化対策が非常に重要な問題となっている。現在ヒルトンホテルやマリオットホテル、ハロッズデパート、英国放送協会(BBC)などでNMRパイプテクターの導入が進んでいる。
(2)英国での事例2:英国ロンドン市ロズハウス(オフィスビル)
①建物概要:築35年、3階建
②給湯方式:メイン管は循環式、枝管は一過性給湯方式
③配管材料:亜鉛めっき鋼管
④設置目的:赤水解消、配管延命
⑤NMRパイプテクター設置箇所:貯湯槽2次側給湯配管に1基設置
以上、NMRパイプテクター合計1基設置
(築年数はNMRパイプテクター設置時の数字)
本物件は英国最大のコンピューターソフトウェア開発会社Data Connection社が管理する築35年のオフィスビルで給湯管に亜鉛めっき鋼管が使用されており、配管内の深刻な赤錆腐食により赤水が発生していた。
NMRパイプテクター設置前に夜間滞留後の朝一番のお湯を採水し水質検査を行ったところ、鉄イオン値が英国の基準値0.2㎎/Lを大幅に超える2.26㎎/Lであった。
NMRパイプテクター設置75日後水質検査を行うと、鉄イオン値が0.215㎎/Lと大幅に減少した。さらにNMRパイプテクター設置85日後では鉄イオン値が0.18㎎/L、125日後には0.008㎎/Lと英国の水質基準値0.2㎎/Lを大きく下回り完全に赤水は解消された。